文部省の教科書編纂 (三の17)

  明治二十年四月、文部省はチェンバレン著『日本小文典』を刊行し、官報で、本書は「チエンバレンニ囑シテ著サシムル所ニシテ理法ヲ歐州ニ資リ以テ日本語ノ性質ヲ明ニシ其言語ノ種類ヲ分チ及文章法音韻論ヲ示シ卷中多ク表ヲ挿ミテ學者ノ捷覽ニ供ヘタリ」と説明してをり、音韻を論ずるには特にローマ字を用ゐてゐる。

  文部省編輯局では、同二十年五月に『尋常小學讀本』を、十月に『高等小學讀本』を編纂刊行し、合せて約二千字の漢字を教へることになつた。文部省は、漢字につき「本書中ニ編入セシ漢字ノ如キハ字畫ノ餘リ複雜ナラスシテ其用ノ最モ廣キ者大凡二千字ヲ選ビ印書上普通ノ字體ヲ用ヒテ字形ヲ一目瞭然ナラシム」、文體につき「始メニ談話體ヲ用ヒ後進ミテ文章體ニ」移行するやうにしたと説明してゐる。

  これより先、明治十九年九月に刊行された『讀書入門』は湯本武比古が擔當し、この『尋常小學讀本』は尺秀三郎が擔當したもので、全七卷の中、卷一は殆ど口語體で書かれてゐる。上級に進むにつれて、地理歴史、農工商などに關する事柄が多く加へられてをり、現在社會科學や理科で學習するやうなことを國語で扱つてゐるのは極めて興味深いことである。小學校で、社會、理科、國語に分散して學習する現行の制度を再檢討する必要があらう。

  また翌二十一年に刊行された『高等小學讀本』は、外國の地名人名に片假名の太字を用ゐ、その下に言語まで示してゐる。一例を擧げれば、「ゼノア(Genoa)ニ生レタルクリストファル、コロンブス(Chirstpher Columbus)ナリ」といふことになる。

 


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