明治後期の國語国字問題

田中秀穗の改良意見 (四の1)

  明治二十一年十一月、田中秀穗は『新式發明日本字』を刊行し、假名と漢字とを合せ改良した新日本字を提唱した。例へば、植物類は木偏とし、松を(木マツ)(#注 木偏の右横に縱にマツと書かれてゐる。以下同じ)、動物類は人偏とし、熊を(人クマ)、鷹を(人タカ)とする類であり、その着想の奇拔さには感心するが、漢字のすべてがそれで解決されるわけでもないし、音讀みの場合は却つて發音を阻害することにもなり、害あつて何ら益なきものである。

  また、三十三年二月二十六日の讀賣新聞に田中は「國字改良意見」を發表、その冒頭で「世界の舞臺に列國相爭ふの時、我等國民たる者寸時も其警戒を怠りてはならぬのみならず社會の進歩を計るは人類の一大義務である、偖其進歩の術は數多くあれども最も效用の多きものは國字の改良である」と述べ、五項目に分けて「漢字の不良なる事」を論じた後、各種の改良意見を肯定的に略述し

* ローマ字の缺點は語を寫すに割合に多數の文字を要するにあるを以て、此缺點を除く爲に、ウ列(クスツヌフムユル等)及びイ列(キシチニヒミリ等)の母韻を省く仕方である、之を省くときは拗音を書く時に二字を以て書くことが出來て大に便利である

と、新式のローマ字綴方を提唱してゐるが、これも單なる思ひつきに過ぎず、實用に當つてそれほど便利なものであるとは思はれない。

 


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