曾我と伊知地の意見   (四の38)

  七月三日に開かれた第五囘委員會において、曾我祐準は「私ハ元來原案ニハ反對者ノ一人デアリマス」「殊ニ前囘ノ森博士ノ御議論ハ最モ穩當ニシテ詳細ニ御説明ニナリマシテ深ク私共ノ賛成スルトコロデアリマス」と、鷗外の演説を激賞した後、文部省の説明によると「生徒ニ新舊二樣ノ假名遣ヲ併用サスルトイフコトニナルノデ」、生徒の負擔を軽減することにならないと述べ、「字音假名遣ダケハ生徒ガ答文ヲ書クナリ何ナリニモ發音ダケノコトヲシタラバソレデ許スト云フ位ノ即チ許容ノ一則ヲ置ク位が是レが實際行ハレ得ルトコロノ關ノ山デアラウト思ヒマス」と.改定案に反對すると共に「三十三年ノ棒引假名廢止ト云フコトハ是レハ一日モ早クシナケレバナヌコトヽ思フ」と棒引假名遣の撤囘を主張してゐる。

   次いで、伊知地彦次郎は「我海軍ノ軍事上ヨリ申上ゲルダケノ事シ力ゴザイマセヌノデ」と斷つて、「頭腦ノ極ク薄弱ナル新兵ニ向ヒマシテ假名遣ヲ教ユルコトガ甚ダ困難デゴザイマス」「我ガ通信ニ於テハ從來新兵ノ教育ニ至ツテ非常ニ此通信機關ノ遲延スルコトヲ恐レル」と述べ、「海軍ノ新兵ノ通信教授」といふことから「此改正ノ案ハ一日モ早カランコト」を希望してゐるのであるが、新兵の通信教育といふやうな特殊な立場から國民すべてに關係する假名遣の問題を論ずるのは亂暴である。特定の限られた社會の要求は、その社會の内部において當然處理せねぽならぬものである。その後も印刷上の要求とか、タイプライター使用上の要求とか.さうした視點から、國語國字問題を論ずる者が多いが、現在の言語文字に合致するやうに機械の方を改良すべきである。

 


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