「假名文字協會」と山下芳太郎 (五の9)

  大正九年十一月一日、山下芳太郎を中心に「假名文字協會」が設立され、後の「カナモジカイ」(大正十一年改組し、機關誌『カナノヒカリ』を創刊)の前身として.變形片假名左横書きを主張した。同會の創設者である山下芳太郎は同十一月『國字改良論』といふ小冊子を刊行し、實業家としての立場からタイプライター使用といふことに主眼を置き、「假名文字の二條件」において

* 第一、横竝べの片假名の字體は、如何に之を工夫するにしても、誰が見ても直ちに是を讀み得る程度でなければならない。第二、片假名を横に竝べた時に、その文字が互に密着して一語づゝ一つの形をなし、ある見覺ある語形を作らねばならない。文字が結合しないと、一見假名の豆を蒔いたやうで、何時も一字づゝ拾ひ讀みをなすことゝなる。これでは文字たるの資格を外れる。

と述べてゐるが、未だに「文字たるの資格」を獲得するまでに工夫された片假名は案出されてゐない。しかし、從來の假名文字論者が假名の讀みにくさを單に慣れの問題であるとしてゐたのに對し、その原因が字形にあることに氣づいた點において、或いは假名文字の缺點を正直に認めた點において、一歩前進したことは事實であるが、その缺點が、假名文字としての原形を留めながら、しかも讀み易いやうに工夫し得るやうな性質のものでないことも事實である。

  一方、日本式ローマ宇の主張者によつて「日本ローマ字會」が翌大正十年一月に結成され、會長に田中館愛橘、副會長に田丸卓郎が就任し、機關誌 "Romazi Sekai" が發刊された。またヘボン式ローマ字論者によつて、同年三月「帝國ローマ字クラブ」が大阪に設立され、會頭に櫻根孝之進、理事に加茂正一が就任した。


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