新聞社の實行宣言 (五の15)

  同大正十二年七月七日、新聞・雜誌・印刷關係者によつて「漢字整理期成會」が設立され、「教育の進展と人文の發達を促し特に印刷能力の増進を圖らんが爲に臨時國語調査會の定めたる常用漢字を基礎として漢字制限の實行を期す」といふ宣言を行つてゐる。
また八月六日には、東京及び大阪の新聞社(二十社)が常用漢字の制定を支持し

* 漢字制限はすでに議論の時代を過ぎて實行の時代にはいつて來ました。その實行が一日早ければ、國民文化の進みは一日早まります。そして日々最も多く漢字を取扱ってゐるわれらは.その實行について、最も深い責任を感じ、また最も強くその促進を望むものであります。

といふやうな宣言を行ひ、漢字制限は「わが國民文化のために、大なる寄與をなし得べきものであることを信じて疑ひません」と述べてゐるが、常用漢字はもともと新聞社の代表が臨時國語調査會の名において決めたものであるから、その實行を宣言したからといつて別に不思議はないのである。新聞社は右のやうな共同宣言を發表して、九月から實行する豫定であったが、皮肉にも九月一日に關東大震災が起り、つひに「國民文化のために、大たる寄與を」なし得なくなつたのは氣の毒である。今日においてすら、幸ひ漢字制限を忠實に實行して「國民文化のために、大なる寄與」をなしてゐる新聞社が一社もないのは、國民文化のために喜ぶべきことである。

 


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