「假名遣改定案」の發表 (五の16)

  大正十三年十二月二十四日、臨時國語調査會の總會が開かれ、上田會長の開會の挨拶こ次いで、増田委員長より國語及び字音假名遣の改定に關する主査委員會の經過報告があり、満場一致で委員會の改定案を可決してゐる。當日保科幹事は記者會見で「改訂の方法」について「大體現代の標準たる發音に一致させるといふ」方針に從ひ、助詞以外には例外を一切設けないことにしたと語り、「適用の範圍」については「主として現代文に適用し固有名詞及その他特殊の事情あるものは暫らく從前通りとする」と説明してゐる。

  先づ「國語の表記に關する通則」によると、國語の拗音及び促音を書くには、「や、ゆ、よ」及び「つ」を右側下に小さく書くことを原則とし、ア列、イ列、ウ列の長音は,ア列、イ列、ウ列の假名に各々「あ、い、う」をつけて書くが、エ列は「い」、オ列は「う」をつけて書くことになつてゐる。また「國語假名遣改定案」によると、助詞の「は,へ、を」以外はすべて發音通り「ゐ、ゑ、を」は「い、え、お」、「ぢ、づ」は「じ、ず」、「せう」は「しょう」といふやうに改められ、長音には「う」が用ゐられてゐる。字音假名遣は例外なくいはゆる發音式に改定されてゐる。以上の通り今囘の改定案は極めて急進的なもので、昭和二十一年制定の「現代かなづかい」と相違する點は、「ぢ、づ」をすべて「じ、ず」に改め例外を認めてゐないこと、「通る、遠い」などを「トウる、トウい」としてゐること、「言ふ」を「ユう」としてゐることなどである。

 


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