「當用漢字表」の制定(その七の5)

  漢字主査委員會(委員長・簗田次郎)は、二十年十二月十七日から 二十一年四月八日までに十四囘の會合を開き、常用漢字千二百九十五字を決定發表した。四月二十四日の新聞によると「固有名詞を全部かな書きにする點では論議沸騰したが、結局一切ふれないこととし、その代り動植物は一切かな書きとした、櫻、杉、松などは勿論國花の菊まで姿を消した」といふことであり、同時に發表された、教科書局長有光次郎の談話は「頻度數を標準にして選定したもので字劃の難易には關係なく、その意味で完璧なものではない、國語の假名書化ローマ字化なども前提として美しい簡素な耳だけでわかる日本語を完成せねばなるまい、いづれにせよ國語のゆくべき方向へこの千二百九十五字はまづ數の第一次制限を果した點では大きく一歩前進したのである」といふ、國字の假名・ローマ字化を明らかに示すものであつた。ところが、第九囘(四月二十七日)及び第十囘(五月八日)の總會において、小幡重一より「これだけの文字では科學技術方面は困る」、小汀利得より「一見してこの表では到底新聞はやつて行けないことは明らかである」「わたくしの新聞では四二〇〇字をつかつている。むりな漢字制限は實行できない」といふやうな意見が述べられ、更に小委員會を組織して檢討することになつた。その主査委員に選ばれたのは、山本有三(委員長)、有光次郎、安藤正次、時枝誠記、宮川菊芳、谷川徹三、小幡重一、村岡花子、井手成三、池上退藏、藤森良信、松村善壽郎、楓井金之助、紺野四郎、松井武夫、瀧口義敏、古垣鐵郎、原富男の十八名であつた。主査委員會は、二十一年六月四日より十月十六日までに二十三囘の會議を開き、當用漢字千八百五十字を選定し、十一月五日の國語審議會第十二囘總會に提出した。同案は、審議會委員七十一名中の四十六名の贊成により可決された。その四十六名中の十四名は委任状によるものであつた。

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