「當用漢字別表」と「當用漢字音訓表」(その七の11)

  安藤正次を委員長とする義務教育用漢字主査委員會二十一年十月から翌二十二年八月までに三十三囘の會議を開き、八百八十一字の「當用漢字別表」を作成してをり、山本有三を委員長とする音訓整理主査委員會は、二十一年十二月から二十二年九月までに二十九囘の會合を催し「當用漢字音訓表」を作成してゐる。以上二つの原案は、二十二年九月二十九日の國語審議會第十三囘總會において承認され、同日森戸文部大臣に答申された。總會において、批判的な意見が述べられると、委員長は「音訓整理や義務教育用漢字は、當用漢字表のまず字數を制限した後をうけての應急の方策處置であつて」とか「お話の點は將來の參考としたい」といふやうに、暫定處置に過ぎないことを強調して、攻撃の鋒先をかはしてゐる。

  右の答申に基づき、昭和二十三年二月十六日内閣訓令・告示を以て「當用漢字別表」(教育漢字)と「當用漢字音訓表」が公布された。前者は「國民教育における漢字學習の負擔を輕くし、教育内容の向上をはかるためには、わが國の青少年に對して義務教育の期間において讀み書きともに必修せしめるべき漢字の範圍を定める必要がある」として「當用漢字表の中で、義務教育の期間に、讀み書きともにできるように指導すべき漢字の範圍を、次の表のように定める」といふもので、後者は「漢字を使用する上の複雜さはその數の多いことによるばかりでなく、その讀みかたの多樣であることにもよるのであるから、當用漢字表制定の趣旨を徹底させるためには、さらに漢字の音訓を整理することが必要である」として「現代國語を書きあらわすために、日常使用する漢字の音訓の範圍をおおむね次の表のように定める」といふものである。

「當用漢字音訓表」によると、一音だけ七百八十五字、一音一訓七百八十六字、一音二訓六十四字、一音三訓三字(初小竝)、一音四訓一字(上)、二音だけ五十九字、二音一訓九十字、二音二訓二十三字、二音三訓二字(明重)、二音四訓一字(生)、二音五訓一字(下)、三音一訓四字(分宮石納)、三音三訓一字(行)、一訓だけ二十九字、二訓だけ一字(畑)である。音訓表がいかに杜撰なものであるかは、「ハカる」といふ訓に「量、計、測、圖」等を認めておきながら、「ミる」には「見」だけを認め、「觀、看、視」等を認めないといふ一事から窺ふことが出來る。

閉ぢる