『國語問題五十年』(その七の18)
昭和二十四年九月、保科孝一の『國語問題五十年』が刊行された。本書は、一生を無謀な國語國字の改革のために空費した筆者が「明治三十年代から今日まで五十年間、國語問題のたどってきた經過や、その間における種々のそう話などは、わたくしのほかには、あまり知っておる人がなかろうと思いますので、その思い出を書きつづり、後世にのこそうかとひそかに考え」て執筆したもので、「もとより五十年の正史という嚴正なものでなく、ただ自分の關與した範圍における思い出を隨筆的にそこはかとなく書きつづったもの」である。その中で、保科は「わたくしもはじめは漢字の全廢を唱えたが、だんだん研究するにつれて」「いまのとろころ、漢字節減で進むべきであると考えるようになった」と述べ、戰後の國語政策を支持してゐるわけであるが、本書の内容よりも「はしがき」の「文部省國語課の諸君が表記を整理してくだされ、その上に出版から校正まで一方ならぬご援助を與えられましたので、どうやら一書の體裁をととのえることができました」といふ一節の方が、保科と國語課との因縁を如實に物語つてゐて興味深い。
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