『日本語の批判的考察』(七の26)

 昭和二十九年四月、岡本千萬太郎の『日本語の批判的考察』が刊行された。岡本はその「まえがき」において「これは改革のための本だ。改革するために學問はある。」「わたしの志は、日本の言語・文章について、批判的に考察し、改革のために原理と方法を見出し、それに從つて實行することにある」と述べ、批判の基準として、傳統性、論理性、倫理性、能率性、藝術性、創造性の六つを立て、この六規準によつて、音韻、單語、文法、表記法などについて批判的な考察を行つてゐる。しかし「改革のために學問はある」といふのは、局部的な一現象を學問の本質と取違へた愚論である。國語學といふ一部門に限つてみても、國語學の進捗に伴ひ、或いは一學説の盛衰に合せて、絶えず言語、文字、文章などを改革せねばならぬとしたら、そこに混亂が生ずることは必定であり、それこそ、言語文字の傳統性も、論理性も、倫理性もすべて失はれることにならう。學問が結果として改革を伴ふことは差支ないが、一途に改革を指向するものであつてはならない。また岡本は、現代假名遣をより表音的に改め、促音を表はす新しい文字を作ることなどを主張し、更に「日本の普通の文字がカナだけかローマ字だけですむように」なることを願ひつつも、「漢字カナまじりは、なかなかやめるわけには行かないだろう」と述べ、漢字と平假名とを用ゐてゐる限り、横書きは適當でないから、横文と調和させるために左縦書きがよいと論じてゐる。

 


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