自由民主黨の『國語の諸問題』(八の17)

昭和四十三年七月、自由民主黨政務調査會の文教制度調査會は二年有半に亙る調査研究の結果を『國語の諸問題』として發表した。同調査會内に設けられた「國語問題に關する小委員會」(委員長・森田タマ)が纏めたもので、戰後の國語政策の行過ぎを正し、混亂してゐる國語政策に正しい方向を示し、自民黨の立場を明らかにしたものである。先づ「アメリカの進駐軍は、誤つた考へから日本の國語をただ易しく易しくと指導し、それに迎合した一部の人達は、傳統ある國語の世界を一氣に破壞し、新しい國語をつくり出さうと企ててゐたのである。その結果、あらゆる面において、大學卒業生ならびに一般市民の讀解力低下といふ顯著な事實となつて現れてきた」といふ認識を示し、「國語の表記については、『國語は、漢字假名交り文を表記の基本とする』旨の文部大臣諮問(昭和四十一年六月)の趣旨を尊重すべきである」として、具體的には、「常用漢字表及び當用漢字別表(教育漢字)の制限は、思ひきつて緩和すべきである」「字體については、正しい字體を基本とし、新字體は便宜的なものとして扱ふべきである」「歴史的假名づかひは、文化の流れに即し傳統的な語法に基いた優れた表記法として、これを尊重すべきである」「音訓表については『讀みの幅を擴げ』、送り假名については『送り假名を最小限に』すべきである」「公用文は右縱書きを原則とすべきであつて、左横書きは學術等の分野の止むを得ないものに限るべきである」「漢字と假名の交ぜ書き及び外來語の濫用は、當用漢字表の制限緩和と併せて是正すべきである」「敬語の亂れは、特に、教育の場に於て正すべきである」「國語表記に關する内閣訓令・告示等については、前二項の趣旨に基き廢止または改訂すべきである」と結論づけてゐる。この結論が政策として實施されれば、國語の正常化は大いに進む筈である。
竹内輝芳は『國語國字』(昭和四十三年八月)の時評において、映畫の宣傳看板に大きく「斬」とあるのを見て「刀に依つて人を斬るのだといふ事が直ちに腦裡に閃く」が「切る」や「きる」では映畫の題名になり得ないことを指摘し、戰後の國語改革を批判して、「國語審議會の爲す事は、國民が果實酒を造るのに、その材料に林檎を用ゐることはならぬが梅や蜜柑なら宜しいといふ事とどれほどの徑庭があらうか。果實酒造りに林檎を使ふと罰せられるが、國語の制限には罰則は無いと言ふかも知れないが、文字を『物』と考へてゐるから制限が可能だと思ふのだ。恐ろしい思想だ」「從來の國語審議會に依つて推進され、文部省に依つて強制されて來た一切の國語政策はこれを御破算と爲し、政府に依つて公示せられた全ての内閣訓令告示等は撤廢すべきである」と訴へてゐる。


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