『國語國字教育―資料總覽』の刊行(八の19)

昭和四十四年一月に刊行された國語教育研究會編纂の『國語國字教育―資料編纂』
(監修・西尾實、久松潛一)はその監修の辭にもある通り、明治初年以來一世紀に亙る國語國字教育ないし國語國字問題に關する百二十人の論文、竝びに文部省が發表した國語國字改革案のすべてが收められてをり、廣く一般國民がこの問題について考へるための資料として、また國語教育の教材及び國語教育者の參考資料として役立つに違ひない。同書に收められてゐる論文・資料はいづれも入手困難なものばかりであるが、國立國會圖書館にもなく、またあつても貴重な資料であるために一般には閲覽できないものも數多く含まれてゐる。
前島密に始まる明治時代は、福澤諭吉、西周、坪内逍遙、上田萬年、原敬、二葉亭四迷、大月文彦、森&M047268;(鴎) 外などの意見、大正・昭和時代は、作家の芥川龍之介、與謝野晶子、島崎藤村、大岡昇平、石川達三、平林たい子、舟橋聖一など、國語國文・言語學者の山田孝雄、保科孝一、新村出、橋本進吉、大西雅雄、柴田武、時枝誠記、倉石武四郎、池田弥三郎、大野晉、金田一春彦、築島裕など、その他津田左右吉、美濃部達吉、小泉信三、吉田富三、林武、荒木萬壽夫などの意見、更に當時大變反響呼んだ山本有三の振假名廢止論、金田一京助と福田恆存の間で行はれた數次に亙る論爭などが網羅されてゐる。
また文部省が發表した改革案として、明治時代の棒引假名遣、送假名法、大正時代の常用漢字表、假名遣改訂案、昭和(戰前)の常用漢字表及び假名遣改訂案の修正、國語ノローマ字綴方ニ關スル件、標準漢字表、新字音假名遣表、昭和(戰後)の當用漢字表、「現代かなづかい」、當用漢字音訓表、當用漢字別表、當用漢字字體表、國語問題要領、人名漢字別表、公用文作成の要領、これからの敬語、當用漢字補正試案、ローマ字のつづり方、かなの教へ方について、送りがなのつけ方など教育者にとつて缺かせない資料も收録されてゐる。
なほ、卷末の國語問題年表(近藤祐康作成)、小中學校の新舊國語學習指導要領、綜合漢字表(土屋道雄作成)は利用價値が極めて高い。殊に五十頁に及ぶ「綜合漢字表」は注目される。漢字數は總計三千六百三十七字である、明治以來の十數種の漢字表を綜合し、a b c d e f g h I j、○×∧《、1 2 3 4 5 6 等の記號や數字をもつて一目で解るやうに部首別に配列されてゐる。隨つて、例へばそれぞれの漢字につき、明治六年の福澤諭吉の『文字之教』、明治三十三年の文部省令第十四號、明治三十八年のチェンバレン編『文字のしるべ』、大正十二年の常用漢字表及び昭和六年の同修正案、昭和十一年のカナモジカイの五百字案、戰前の小學校の國語教科書、昭和十六年の大西雅雄の『基本漢字』(三千字を三種に分類)、昭和十七年の標準漢字表(常用漢字、準常用漢字、特別漢字)、昭和二十一年の當用漢字表及び二十九年の同補正案、昭和二十三年の當用漢字別表(教育漢字)、學年別配當表の配當學年、昭和二十六年の人名用漢字別表などに選ばれてゐるかどうかが一目で分るやうになつてゐる。また昭和二十三年の當用漢字音訓表にある音訓か、ない音訓かの識別、その音訓の「現代かなづかい」と歴史的假名遣の表記の別、更に昭和二十四年の當用漢字字體表による新舊の相違が分るやうになつてゐる。


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