『言葉に關する問答集〈總輯編〉』(9‐9)
 
 平成七年三月、文化廳から『言葉に關する問答集〈總輯編〉』が刊行された。文化部長の福島忠彦の「前書」によれば、昭和四十八年度から「ことば」シリーズの刊行を始め、四十八年は「解説編」だけだつたが、翌年からは毎年「解説編」と「問答集」の二册づつを刊行してきた。「各問答集とも、その題目、内容、構成等について文化廳國語課の擔當官との協議を經た上で、編集委員各氏による共同執筆としてまとめられたもの」で、「幸いに刊行の都度各方面から好評を得、これらを一册にまとめてほしいという要望も多く寄せられ」たため、本書を刊行したといふことである。
 内容について「本書に掲げられている問答の答えも、國語施策の示すところに從って文章を書くとすれば、こうなるであろうというものを中心にしており、本書の趣旨も國民の言語生活について規範を示そうとするよりも、むしろ人々が日本語について考えたり話し合ったりするきっかけとなり、參考となるものであることをねらいとしております」と、低姿勢を示してゐるが、要するに、戰後の文部省ないし文化廳が進めて來た國語施策に沿って文章を書くことを進めてゐるに過ぎない。
 本來の正しい言ひ方や書き方を否定するわけにはいかないが、最近の新しい言ひ方や書き方に御墨付を與へようといふことである。例へば、本來は「一所懸命」で「語原的には『一所懸命』であるが、現在においては、『一生懸命』も廣く通用しているので、この形も認めるべきであると思われる」と答へ、「耳ざわり」について「『耳障りが良い』とも『耳障りが良くない』とも使えるわけである」と答へてゐる。