『これが敬語ですよ』と『聲に出して讀みたい日本語』(9‐15)

平成十三年十月に出版された萩野貞樹の『これが敬語ですよ』は時枝誠記の敬語論に基き、圖形を用ゐて一般の人にも解るやうに敬語について解説したもので、萩野は「じつは敬語なんて、すこしも複雜ではありません。要するに自分を含めて人物間の上下關係をとらえさえすればよい。これが基本の基本です」と言ひ、既存の敬語參考書に對する批判が隨所に見られる。

同平成十三年九月、齋藤孝の『聲に出して讀みたい日本語』が出版された。齋藤は本書を編む切掛けを、幼稚園兒が「李白や杜甫の詩を大きな聲で暗誦・朗誦する樣は、衝撃的であった」「自分の子どもに日本語の暗誦をさせたいと思ったときに、適當なテキストがなかった」からだと説明してゐる。本書には萬葉集、平家物語、方丈記、歌舞伎、狂言、短歌、俳句、詩、いろはかるた等、實に樣々な文や詩が採上げられてをり、齋藤は「おわりに」に「この本に採録されたものは、文語體のものがほとんどである。古い言葉遣いには、現代の日常的な言葉遣いにはない力強さがある」「暗誦文化は型の文化である。型の文化は、強力な教育力を持っている。一度身につけてしまえば、生涯を支える力となる。日本語の感性を養うという觀點から見れば、暗誦に優るものはない」「ここに收録した言葉は硬く滋養にあふれたものばかりだ。こうしたものを暗誦するということは、母國語の強い顎をつくることになる」と説いてゐる。古典の素讀を重視した寺子屋教育が見直されつつあるやうに思はれる。