栞 増補第六版の發行に寄す

宇野 精一 (東京大學名譽敎授)

本會の機關刊行物として「國語國字」を刊行してゐるが、その外にも隨時の刊行物があり、その中に今囘發行する栞がある。その第一版は昭和三十四年十二月十七日附になつて居り、内容は、宣言、役員名簿(理事長、常任理事、理事、評議員、監事、主事合計百五十四名)、國語問題略史、會則から成る三十數頁のパンフレットである。その後、昭和四十年八月附で、「國語問題に關する國民運󠄁動贊同者芳名錄」(約一千三百餘名)及び今囘採錄した「同胞󠄁各位に訴へる」、その他を内容とするパンフレットその他も刊行してゐる。

栞は三十五、三十六年と相次いで刊行してゐるが、その後は昭和五十一年に第五版を刊行して以來かなりの年月が經過してしまつた。今本會成立直後の第一版の栞の役員や上記の贊同者のお名前を見ると、文化界はじめ諸方面の今は物故された著名な方々が名を連ねて居られ、誠に感慨無量なものがある。

來年は、本會創立四十年目を迎󠄁へるので、その記念の意味を含めて、久しぶりに栞を發行することにした。本會創立の頃をふり返󠄁つてみると、世は文化廳の國語審議會を初めとして新聞、雜誌など、滔々として漢字排斥の流れがあり、現代假名遣い(東大敎授橋本進󠄁吉先生によれば、現代假名遣いは假名遣ひに非ずといはれた)さては送󠄁り假名のつけ方に至るまで、傅統を全く破壞することに狂奔してゐたのである。それが本會の運動や第七期國語審議會(昭三九)における吉田富三博士の提案、それを受けた次期第八期(昭四一)における中村梅吉文相の挨拶に「當然のことながら國語の表記は、漢字かな交り文によることを前提とし」とあることで完全に方向轉換することとなり、その後のワープロ等の進󠄁步普及で漢字は概ね復活したが、假名遣の問題が殘つてゐる。この 栞は本會の活動と主張を紹介するもので、大方の御支援、御協力を切に期待するものである。

――平成十年三月二十三日――


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