四－二十八 「ローマ字ひろめ會」及󠄁び「文藝協會」の誕生
「ローマ字ひろめ會」は「日本語をローマ字で書くことを擴める」目的󠄁を以て、明󠄁治三十八年十月󠄁に設立された。その後西園寺公望󠄂が會頭に（四十年一月󠄁）、林薰が副會頭に(三十九年十二月󠄁）に就任してゐるが、同會の評󠄁議員には,藤󠄁岡勝󠄁二、巖谷秀雄、鎌󠄁田榮吉、神田乃武、菊池大麓、小西信八、日下部重太郞、前󠄁島密、向軍治、根本正、阪谷芳郞、櫻井義肇、澤柳政太郞、田丸卓郞、田中館愛橘、上田萬年、渡部董之介、山川健次󠄁郞などの名が見られる。なほ本部幹事は櫻井義肇(正)、川副佳一郞(副）、大阪支部幹事は櫻根孝之進󠄁、仙臺支部幹事は山本有成󠄁であつた。また同會結成󠄁までの事情󠄁は、大正十一年に刊行された川副佳一郞の『日本ローマ字史』によると、向軍治が櫻井義肇の『新公論』誌上にローマ字欄を設けるやうに勸めると
＊櫻井氏は更に一步を進󠄁めて、同じくローマ字の主󠄁張を公にする以上、新に獨立した一個のローマ字雜誌を作り、大に國字改良の實を擧げたいと云ふので、向氏及󠄁ぴ同志の人々と計り、先づ前󠄁記帝󠄁國敎育會國字改良部の人々と協力し、始めて成󠄁立を吿げたのが今日のローマ字ひろめ會なのである。
といふことであり、ヘボン式と日本式との大同團結であつたため、後に同會のローマ字綴方を決定するに當り、日本式の主󠄁張者は離脫してゐる。
また三十八年十二月󠄁「文藝協會」が誕生、翌󠄁年二月󠄁十七日芝の紅葉館で發會式が行はれた。同會の會則第一條には「本會は我が文學、美術󠄁、演藝の改善進󠄁步及󠄁び其の普及󠄁を計り、以て社會の風尙を高むると共に、國家の勃興に應ずべき文運󠄁を振作するを目的󠄁とす」とある。また同會の發起󠄁人は、巖谷秀雄、五十嵐力、高田早苗、坪󠄁內雄藏、坪󠄁井正五郞などであり、會頭には大隈重信が就任した。
更に三十九年六月󠄁に、黑板勝󠄁美を中心に「日本エスペラント協會」が、十二月󠄁に「國語擁護會」が設立された。後者は物集高見、櫻井熊太郞など四十數名によつて結成󠄁され、文部省の假名遣󠄁改定案の反對運󠄁動を展開した。かうした民間の强力な反對運󠄁動により、つひに貴族院は發音󠄁式假名遣󠄁を歷史的󠄁假名遣󠄁に戾すべきであると、四十年三月󠄁文部大臣に建議するまでに至つた。