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九-二十九 命名の自由

 平󠄁成󠄁十五年十二月󠄁二十六日の新聞報道󠄁によれば、「曾」の字を含む名前󠄁をうけた出生屆を區役所󠄁が受󠄁理しなかつたのは不當だとして、父󠄁親が提起󠄁した審判󠄁で、最高裁第三小法廷は「『曾』を使った氏や地名は多く、國民に廣く知られている」として名前󠄁に使用することを認󠄁め、區役所󠄁に出生屆を受󠄁理するやうに命じた一審、二審の判󠄁斷を支持して決着した。これは劃期󠄁的󠄁なことで、常用漢字(一千九百四十五字)と人名用漢字(二百八十七字)以外の漢字を名前󠄁に使へる途󠄁が開かれたと言へよう。ただ、「國民に廣く知られている」といふ條件がついてゐるから、まだ完全󠄁に自由になつたとは言へない。一日も早く、無條件で命名の自由を認󠄁めるべきである。その後、法制審議會は人名用漢字として四百八十八字を追󠄁加することを決定したが、字數は問題ではない。戶籍法による規制を解除すべきである。

 平󠄁成󠄁十五年十一月󠄁五日、文化󠄁審議會(中央省廳の改革によつて文部省は文部科學省となり、國語審議會に代つて文化󠄁審議會が發足した)の國語分科會は小學校卒業までに常用漢字(一千九百四十五字)の大半󠄁を讀めるやうにする。そのためには「心ぱい、せい長」等の表記をやめ、初めから「心配、成󠄁長」と表記し、必要󠄁に應じて振假名をつけて早くから漢字を兒童の目に觸れさせる。これに伴󠄁ひ小學校の國語の時間數を大幅に增やすべきだといふ提言を行つた。及󠄁び腰󠄁ながら、文化󠄁審議會が漸くここまで來たかといふ感慨を禁じ得ない。この提言が實行されれば、狀況はかなり好轉すると思ふが、願はくは、常用漢字の大半󠄁などと言はず、それ以外の「梨、奈、岡」「熊、狐、鳩」「柏、椿、藤󠄁」等、一般社會でしばしば見かける漢字はどしどし敎科書に採󠄁入れて貰ひたい。また右の提言とは反對に、週󠄁五日制に伴󠄁ひ小中學校の國語の時間が大幅に減らされ、その煽りで鷗外や漱石の作品が敎科書から締め出されることになつた。實に愚かなことと言はざるを得ない。


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