三-十九 中根と濱田の送󠄁假名法
明󠄁治九年の中根淑著『日本文典』は、送󠄁假名について述󠄁べた最初の文獻だと言はれてゐるが、その「送󠄁り假名法則」は「一 變化󠄁ノ聲ヲ送󠄁ル者……飽󠄁キ・飽󠄁クの類」「二 語中ノ聲ヲ送󠄁ル者……長サ・直チの類」「三 語中ノ聲ヲ送󠄁ラザル者……勢(イキホヒ)・既(スデニ)・則(スナハチ)の類」「四 規則外ノ者……以(モチテ)・雖(イヘドモ)の類」といふ四原則を立ててゐる。これに對し、明󠄁治二十年に刊行された、濱田健次󠄁郞の『副假字法規』は「第一原則 語尾變化󠄁セサルモノハ副假字ヲ附セス」「第二原則 語尾變化󠄁スルモノハ其ノ變化󠄁スル所󠄁ヨリ寫シテ副假字トス」「第一變則 語尾變化󠄁セサルモノト雖モ慣習󠄁ト便宜トニ從ヒ副假字ヲ附スルコトアリ」「第二變則 語尾變化󠄁スルモノト雖モ罕ニハ慣習󠄁ト便宜ニ從ヒ副假字ヲ附セサルコトアリ」といふ二つの原則と二つの變則を立て、第一原則には、名詞、代名詞、詠歎詞を、第二原則には、動詞、形容詞を、第一變則には副詞、接續詞、後置詞を、第二變則には、動詞より轉じた名詞及󠄁󠄁び副詞を當ててゐる。
明󠄁治二十二年四月󠄁の內閣官報局編󠄁纂の『送󠄁假名法』は、局員である濱田健次󠄁郞の起󠄁草したものに多少の修正を加へて發行したものであるから、內容は前󠄁記『副假字法規』と殆ど同じである。ただ各則二十三條を新たに加へた點に違󠄂ひがある。この內閣官報局編󠄁纂の『送󠄁假名法』は明󠄁治二十七年五月󠄁に同名で刊行された。また『日本文典』を著はした中根淑は、明󠄁治二十八年十月󠄁『送󠄁假名大槪』を刊行してゐるが、それについては內閣官報局のものと合せて後で述󠄁べることにする。
明󠄁治二十一年一月󠄁には、藤󠄁本末乙が『萬國合同文字』(速󠄁記文字)を、二月󠄁には「かなのくわい」が『かなぶんのかきかた』を刊行してゐる。