四-五 重野安繹の常用漢字文
重野安繹は、三十二年五、六月󠄁の『東京學士會院雜誌』に「常用漢字文」を發表した。これは四月󠄁九日學士會院で講󠄁演したものである。重野は漢字廢止論に反對して、常用漢字五千六百十字を選󠄁び、それを千字文のやうに四言の句に綴り合せ、これ以上は漢學者においても不要󠄁であるとし
*成󠄁程󠄁漢字は字數が多くて困る、訓も多い、普通󠄁の人には皆讀み得ないといふのは其の通󠄁りである、倂しながら漢字は凡そ二千年も我が國に通󠄁用して居つて、言葉から何から皆漢字で出來てゐる以上は、なかなか容易に更へられない、*拙者に限らず、世間の人も是れは言ふべくして行ふべからざることだと言つて居る樣です、
と論じ、「五千字一萬訓ぐらゐのものを覺えるのは、そんなにむづかしいことはない」と述󠄁べてゐる。
また三十一年六月󠄁、大島正健は『漢字と假名』を刊行し、その前󠄁半󠄁で「漢語漢字の弊󠄁害󠄂と其の矯正策」、後半󠄁で「假名使用法」について論じ、最後に國語假名遣󠄁と字音󠄁假名遣󠄁を記憶する便法を示してゐる。