四-二十四 堀江の『國字改良論纂』
明󠄁治三十五年七月󠄁に刊行された、堀江秀雄編󠄁『國字改良論纂』は、國字改良を論じた二十三編󠄁の論文を收錄したものである。久米邦武は、漢字全󠄁廢・ローマ字採󠄁用は卓見ではあらうが「一つの卓見を立おきて豫言とならんとならば、人種改良論をなすべし」と、實施困難であることを指摘し、「歐人は音󠄁字を偏󠄁用し、支那󠄁人は形字を偏󠄁用し、いづれも其困難をうけつヽあるに、日本のみは其兩用の字を習󠄁用して漢字交りの假名文を用ゐる、是各國に勝󠄁る優美の國ならずや」と漢字假名交り文を肯定する反面、漢字と假名で用が足りぬ場合には、「羅馬の假字も用ゐるを妨げず」としてゐる。
また藤󠄁岡勝󠄁二は、文字の長所󠄁として、空間的󠄁長所󠄁と時間的󠄁長所󠄁の二點を擧げて說明󠄁した後、文字は單に言語の短所󠄁を補ふためのものであると述󠄁べ、次󠄁いで綴字を一定にする方法に「種々に區々に言語を記載することを避󠄁け明󠄁かに語音󠄁を表示するに足る方法を取ること」「語源の埋沒せんことを憂ひ常に語源を保護して綴字を一定すること」「古來の傳說を遵󠄁守して實際上音󠄁韻の變化󠄁を顧󠄁みず古書古文に標準をおくこと」の三つがあるが、「第二第三は本末を誤󠄁れる者」であるとして第一の立場を支持すると共に、文字としてはローマ字を採󠄁用すべきであると論じてゐる。一方本書の編󠄁者である堀江は、その「結論」において「吾等は平󠄁假名改作說を採󠄁る者である」と述󠄁べ、元良勇次󠄁郞の橫書きを支持してゐる。