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六-十八 木枝の『假名遣󠄁硏究史』と日下部の『現代國語思潮󠄀』

 昭和八年六月󠄁、木枝增一の『假名遣󠄁硏究史』が吉澤義則監修で刊行された。吉澤はその序において、本書は京都帝󠄁大國語硏究室の國語學史大系中の一篇で「木枝文學士が、從來世に行はれてゐる國語學史中國語假名遣󠄁に關する諸說を一々原書に就いて檢討考査した結果を新に整理して、世に問はんとする著述󠄁である」と說明󠄁し、次󠄁いで木枝の言葉を引用して「本書の說述󠄁がやゝもすると解題的󠄁に流れがちなのは、容易に原本を見ることの出來ない人々の爲に、なるべく多くの書を紹介しようといふ意󠄁志があつたからで、肯て史的󠄁觀察を輕んじた譯ではない」と述󠄁べてゐる。本書は、序說、定家假名遣󠄁、定家假名遣󠄁の傳流、契沖の歷史的󠄁假名遣󠄁、歷史的󠄁假名遣󠄁のり傳流、異流假名遣󠄁、明󠄁治大正昭和時代の假名遣󠄁問題の八章から成󠄁り、附錄に假名遣󠄁の歷史的󠄁硏究資󠄁料が添󠄁へてあり、假名遣󠄁文獻資󠄁料として貴重なものである。木枝自身の考へ方は、「現代の言葉の書きあらわし方はよろしく現代の發音󠄁の上に標準をもとめるべきである」どいふものである。

 同八年六月󠄁、日下部重太郞の『現代國語思潮󠄀』が、次󠄁いで十月󠄁にその續篇が刊行された。本書は明󠄁治初年より昭和八年までの國語國字問題の推移を歷史的󠄁に記述󠄁したもので、特に明󠄁治時代が詳しく、文獻資󠄁料としての價値の高いものである。ただ著者がローマ字論者であるため、資󠄁料の取捨󠄁選󠄁擇が一方に偏󠄁してゐる懸念がある。

 モの頃から、日本が海外へ進󠄁出するにつれ、日本語の海外普及󠄁󠄁を圖るために、海外用の特別敎科書が編󠄁纂されてゐるが、『南洋群島國語讀本』にはは「オヤ ニ シンパイ ヲ カケル ノワ ワルイ コトデス」、『朝󠄁鮮普通󠄁學校國語讀本』には「ソラ ガ アオク ハレテ イマス。ヒコウキ ガ オウキナ オトヲ タテテ」、『臺灣公學校用國語讀本』には、「アナタ ワ ナニ オ シテイマス カ」、『南滿洲敎育會日本語讀本』には「オオサマ ニ オメ ニ カキマショオ」とあり、各々獨自の發音󠄁式假名遣󠄁を採󠄁用してゐる。


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