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八-二 松坂忠則の『國語國字論爭』

 昭和三十七年一月󠄁、松坂忠則の『國語國字論爭』が出版された。カナモジ論者の松坂は「漢字は、文字一般の進󠄁化󠄁の法則のとおりに表意󠄁文字から表音󠄁文字に變わろうとしてきた」「漢字の大部分を占める『形聲』は、中國語のための文字としてはかなり便利な構󠄁成󠄁になっているが、日本語(ヤマトコトバ)には緣のない構󠄁成󠄁のものである」「日本では、ごく未開の時代に、大陸から新しい文化󠄁とともに漢字を輸󠄁入した。その結果、知識が特權階級󠄁の條件となり、漢字は特權を守る役目をになった」と明󠄁治初期󠄁の見當外れの認󠄁識に固執してゐる。漢字全󠄁廢を目指す者として怪しむに足らぬが、許しがたいのは、明󠄁治四十一年の臨時假名遣󠄁調󠄁査委員會に言及󠄁して「『軍の意󠄁向』によって、改正案がほうむり去られた。軍の意󠄁向をうしろだてにして反對論を唱えたのは、森鷗外であった」と鷗外を誹謗してゐることである。虛僞であることは本書の二九二頁『國語問題論爭史』の項を見れば明󠄁かであり、松坂の本の「おわりに」にある「自說につごうのよいように事實をまげて紹介するのは、もっとも惡い」といふ一節を以て應へるしかない。また松坂は「現代かなづかい」に反對して歷史的󠄁假名遣󠄁を守らうとする「いちばん大きな原因となっていると思われるのは、使いなれた表記法だから離れがたいという『慣習󠄁』の力である」と述󠄁べてゐるが、そのやうな個人的󠄁思はくで歷史的󠄁假名遣󠄁を守らうとしてゐるのではあるまい。不合理な「現代かなづかい」が正常な言語感覺を痲痺させ、日本文化󠄁の繼承發展を妨げ文化󠄁の質を低下させるからではないか。


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